新しい商用車として登場した、ホンダ「N-VAN」とダイハツ「キャディ」を比較してみます。
両モデルは4ナンバーの軽商用車ですが、乗用ベースの車で開発が行われ、通常の軽バンとは成り立ちが違う車です。
ホンダ「N-VAN」は2018年7月に、「アクティバン」の後を引き継ぐモデルとして登場し、開発ベースとなったは「N-BOX」です。
「N-BOX」を軽バンのベースとしたのは、新たな商用車のプラットフォームを製作しても、採算に見合う販売台数の、確保が難しいホンダのお家事情があり、苦肉の策でもあります。
しかし、「N-VAN」は単に「N-BOX」を商用車として仕上げたのではなく、多くのアイデアを詰め込み、使える車として造り上げています。
そのアイデアの中には長尺ものを積み込むため、助手席までフルフラットにしたこと、助手席側のスライドドアはピラーレス構造とし、大きな開口部を実現させたことなどが代表的なものです。
「N-VAN」はビジネスユーザー向けの、「G」「L」 、パーソナルユーザー向けに「FUN」「COOL」のグレードが用意され、「FUN」「COOL」は「バモス」の後を引き継ぐ車になっています。
ダイハツ「キャディ」は新しい軽商用車用として、2016年の6月に登場し「ウェイク」を開発ベースとし造られています。
「キャディ」はFF車ベースとすることで、低いフロアの使い易い荷室を実現させ、仕事を楽にすることがコンセプトとなっていますが、登場した背景には「ウェイク」の販売台数が、目標より大きく下回っていることも関係しています。
背が高く大きな空間をもつ「ウェイク」を、軽バンとして改造し、販売台数を増やそうとしたダイハツの発想は、着眼点の良さを感じます。
「キャディ」のグレードは、最上位の X“SAⅢ” に続き Dデラックス“SAⅢ ” D“SAⅢ” ベースモデル D の4タイプで構成されます。
「N-VAN」と「キャディ」のスペック比較
2WD/NA仕様 | N-VAN | キャディ | |
全長(mm) | 3,395 | 3,395 | |
全幅(mm) | 1,475 | 1,475 | |
全高(mm) | 1,850/1,945 | 1,850 | |
ホイールベース(mm) | 2,520 | 2,455 | |
車両重量(kg) | 930~960 | 970~980 | |
乗車定員(名) | 4 | 2 | |
最大積載量(kg) | 350 | 150 | |
荷室寸法(mm) | 長さ(左/右) | 1,510/1,330*(0.785) | 1,310 |
幅 | 1,235*(1,390) | 1,.210 | |
高さ | 1,260~1,365 | 1,235 | |
エンジン | 最高出力(PS/rpm) | 53/6,800 | 52/6,800 |
最大トルク(kgm・f) | 6.5/4,800 | 6.1/5,200 | |
燃料消費率JC08モード | 18.6~23.8 | 25.0 | |
最小回転半径 | 4.6 | 4.4 |
「N-VAN」*は4名乗車時の数値です。
スペックを比較すると、ロールーフ仕様の「N-VAN」は「キャディ」と同じ高さですが、ハイルーフ仕様の「N-VAN」は「キャディ」より全高が高くなっています。
「N-VAN」はホイールベースが長く、車両重量が「キャディ」より軽く造られ、最大積載量も大きくなっています。
荷室は長さ、幅、高さ全てで「N-VAN」が大きいスペースを確保しています。
エンジンの最高出力は同レベルですが、最大トルクは「N-VAN」が大きく、さらに低い回転域で発生させています。
燃費性能は「キャディ」が良い数値を示し、最小回転も小さく小回り性能も優れています。
試乗し比較するグレードは「N-VAN」が「COOL」、「キャディ」が D“SAⅢ”です。本来なら「キャディ」は上位のグレードが妥当と思われますが、試乗車の都合上 D“SAⅢ”となりました。
スクエアでスペース効率を追求した「COOL」と「キャディ」のデザイン
「COOL」は特徴的な3本のラインを入れ、ボディパネルの強度を高めていますが、「キャディ」はスムーズな面で、ボディパネルを構成しています。
フロントに大きなメッキガーニッシュや、LEDのフォグランプを使い、パーソナルユースを意識した「COOL」に対して、ガーニッシュがなくブラックバンパーとされた「キャディ」は、ビジネス色が強い仕上げです。
「COOL」はフロントクォーターウィンドがなく、ベースの「N-BOX」とは違う作りです。「キャディ」は「ウェイク」から引き継ぐ、リアクォーターウィンドが洒落たデザインです。
「COOL」はフロントのキャビン部分が、「ウェイク」より前方に位置し、荷室スペースを広げています。
「COOL」はテールゲートの開口部幅を広げるため、幅を極端に狭くしたリアコンビネーションランプを採用しています。「キャディ」はブラックバンパーが、ビジネスライクな印象を強めます。
全高は「COOL」「キャディ」ともに1,850mmと同じ高さで、見上げるような高さがあります。両車ともにボディパネルを直立させ、スペース効率を追求していますが、「キャディ」はルーフに向けて少し絞り込んだデザインとしています。
「COOL」と「キャディ」のエンジンパワーは互角ですが、「キャディ」は最大トルクが低く、さらに高い回転域での発生となっています。
「COOL」のタイヤは145/80R12サイズで、バン、貨物用省燃費タイヤ、ヨコハマ JOB RY52で、フルホイールキャップが装着されます。「キャディ」は155/65R14サイズで、タイヤはダンロップエナセーブの、乗用タイヤが装着されます。
この装着タイヤの差は、両車の最大積載量が違うためです。
「COOL」はスペアタイヤを床下リアバンパーの奥に収納し、「キャディ」は荷室の下に収納します。荷物積んだ場合を考えると、「COOL」の方式が荷物を降ろすことなく、タイヤ交換ができるので便利です。
「COOL」のインテリアは、ベースが商用車仕様のため質素ですが、パーソナルユースを意識し、加飾が加えられています。「キャディ」はエアコンがマニュアル式となり、商用車感が強いインテリアです。試乗車はベースグレードのため、ステアリングの加飾もなく、さらにその印象が強くなります。
「COOL」は助手席足元に置いた荷物が、運転席側に移動しないように、助手席と運転席の間を仕切る、パーテーションが設置されます。
「COOL」の助手席インパネには、急速充電に対応したUSBジャックが2個装備されます。「キャディ」は容量6.6Lの大型ボックスを、助手席前に用意し、お弁当の収納にも使えるようにしています。
シートは両モデルとも、ファブリックの表皮となっています。運転席に限ると「COOL」のシートはサイドサポートが適度にあり、「キャディ」より体がホールドされる形状です。
「キャディ」にリアシートはありませんが、「COOL」は4人乗りのためリアシートが設置されます。しかし、座り心地は窮屈でシートは薄いため、長時間の移動用としては無理があります。
開口部の広さとフロアの高さを比較
COOL | キャディ | |
助手席側開口部幅(mm) | 1,580 | 560 |
荷室フロア高(mm) | 525 | 595 |
荷室高(mm) | 1,260 | 1,235 |
フロントフロア高(mm) | - | 360 |
フロントシート高(mm) | - | 750 |
助手席側スライドドアの開口部幅は、ピラーレスとした「COOL」が圧倒的に有利です。また、荷室フロアも「COOL」は低く、そのため、全高は同じですが荷室の高さも、「COOL」が高くなっています。
「キャディ」はフロントドアが大きく、スライドドアは小さくデザインされているため、開口部の幅も狭くなっています。
フロントのフロア高とシート高を「N-VAN」は公表していないので、No dataとしています。
荷室の長さと幅を比較
COOL | キャディ | |
荷室長(mm) | 2,635(最大)1,585(2名乗車時) | 1,310 |
荷室幅(mm) | 1,325 | 1,210 |
荷室の長さ幅ともに「COOL」が大きく、広い容量を確保していいます。「キャディ」は荷室につなぎ目がないので、荷物の移動がスムーズで、ゴミも隙間から下へ落ちません。また、フロア素材がハードな樹脂製なので、「COOL」より耐擦傷性では優れています。
ラゲッジフロア下は、「キャディ」が「COOL」より大きく深いスペースを確保していいます。「キャディ」はこのフロア下のスペースを活用すると、ルーフまで1,485mmとなり、大きな鉢植えの観葉植物などを積み込む場合に便利です。
「N-VAN」と「キャディ」積載量の目安
積 載 物 | N-VANハイルーフ |
段ボール箱(長さ380×幅310×高さ280mm) | 71個 |
ビールケース(長さ447×幅364×高さ315mm) | 40個 |
積 載 物 | キャディ |
段ボール(497×315×293mm) | 18個 |
段ボール(669×319×432mm) | 8個 |
パンケース(680×420×100mm) | 35ケース |
走行性能と乗り心地は「COOL」がリード
ドライブすると両車の差は明確です。「キャディ」は「COOL」より重量が重く、エンジンの特性も高回転型で低速トルクが細いため、発進加速が遅くストレスがたまる走りです。
スピードが出ると流れに乗って走ることはできますが、発進時は反応が悪いので、アクセルを常に大きく踏み込む必要があり、ストップ&ゴーが連続する市街地では、ギクシャクとした動きになり、扱い難い特性です。また、サスペンションが硬くされているため、段差の乗り越えや路面の凸凹は、忠実に乗員に伝わり商用車を強く感じさせます。
「COOL」は「N-BOX」より重くなっていますが、低い回転域から、大きなトルクを発揮するエンジンが、この重量増を感じさせることなく、軽快な走りをみせます。発進加速も躊躇することなく始まり、スムーズな出足です。
足周りは貨物用の幅が細く、径の小さい12インチタイヤを履いていますが、安定性が高く落ち着きのある走です。積載重量に対応するため、専用設計とされたリアサスペンションとフロアが、効果を発揮していることを感じさせます。路面が悪いと硬さが伝わる足ですが、それ以外ではフラットで角が少ない乗り心地です。
「COOL」と「キャディ」の価格を比較
「COOL」と「キャディ」の価格を比較してみます。「キャディ」は試乗車ではバランスが取れないので、Dデラックス“SAⅢ”で比較します。
2WD/CVT | COOL | キャディ Dデラックス“SAⅢ” |
メーカー希望小売価格 | 1,560,600円 | 1,258,200円 |
「キャディ」 Dデラックス“SAⅢ”は「COOL」より、メーカー希望小売価格が安くなっていますが、装備が簡素なのでオプションを追加して、同じレベルの仕様に近づけてみます。
2WD/CVT | COOL | キャディ Dデラックス“SAⅢ” | |
エアコン | オート | マニュアル | |
充電用USBジャック | 標準2個 | - | |
アクセサリーソケット | 助手席/荷室 | インパネ | |
ECON | 標準 | - | |
フロントシートアームレスト | 標準 | - | |
ユーティリティーナット | 標準 | - | |
フロントシート小物侵入防止版 | 標準 | - | |
カラード電動格納ドアミラー | 標準 | 48,600円 *ドアミラーはオート格納 | |
プッシュボタンスタート | 標準 | ||
キーフリーシステム | 標準 | ||
オートライト | 標準(Honda SENSING) | ||
スーパーUV&IRカット(フロントドアガラス) | 標準 | 18,360円 *サンバイザーバニティミラーは運転席のみ | |
サンバイザーバニティミラー | 標準(運転席/助手席) | ||
エアコンフィルター | PM2.5対応(標準) | ||
LEDフォグランプ | 標準 | 54,000円 *アルミホイール | |
ホイール | スチール/フルホイールキャップ | ||
シート間トレイ | - | 21,600円 | |
助手席シートバックテーブル | - | ||
ボディカラー | 32,400円 *プレミアムベルベットパール | 21,600円 *トニコオレンジメタリック | |
合計金額 | 1,593,000円 | 1,422,360円 |
「キャディ」にオプションを追加し、「COOL」と価格を比較すると「キャディ」が約17万円安い金額です。しかし、「COOL」には「キャディ」にない装備も多く、同じ仕様ではないため、そのことを考慮する必要があります。
軽バンを突き詰めた「N-VAN」曖昧となった「キャディ」
「COOL」を含む「N-VAN」シリーズは、これまでの「アクティバン」「バモス」に変わる車となるため、かなり気合の入った作りでホンダの本気度が伝わります。
ベースとなる「N-BOX」をそのまま流用するのではなく、FF駆動で不利になる荷室の広さを、フロントシートの位置まで見直し、スペースを作り出しています。
また、スライドドアのピラーレス化は、新しいアイデアではありませんが、効率の求められる商用車に持ち込んだところに、ホンダの着眼点の良さを感じます。
「キャディ」は乗用ベースの車を、商用車としてリメイクし販売することを、「N-VAN」より先行し行っています。発想は良いところをついているのですが、コンセプトの完成度が低いことが残念です。
開発費の制限があったためか、「ウェイク」のリアシートを取り去り、フラットフロアを取り付けただけの印象が強く、新しい商用車としての魅力に欠けます。
ダイハツには軽バンとして「ハイゼットカーゴ」が存在するので、ヘビーユーザーはそちらを、ライトユーザーは「キャディ」との棲み分けを目指していますが、「キャディ」の位置づけが曖昧で強くアピールするものが足りません。
車両価格は相対的に「N-VAN」シリーズが、高い設定になっていますが、使える車としての内容の濃さは、「COOL」が「キャディ」を大きく上回っています。特にNAエンジン車の走りは、荷物を積むのが心配になる程の「キャディ」と、スムーズな加速をみせる「COOL」では大きな違いがあります。
また、「N-VAN」シリーズのリアシートは簡易的ですが、緊急用に4人乗れるのは、2人しか乗れない「キャディ」に対して有利で、シートアレンジで荷室を変えることができるのも、使い勝手の幅を広げています。
「キャディ」が有利なのは、フラットで継ぎ目のない丈夫な荷室フロアと、助手席の乗り心地です。
「N-VAN」シリーズは、シートを収納し荷室フロアとするため、小さな隙間で荷物が引っ掛かる場合もあり、ゴミも下に落ちてしまいます。さらに、それほど硬い素材のフロアではないので、ハードな使い方をするには、オプションのフロアマットを購入する必要があります。
また、助手席のダイブダウンするシートは小さなサイズで、運転席のシートとは作りが違い、サイドサポートもなく、座り心地もゆとりがありません。
「COOL」と「キャディ」を比較した場合に、価格は高いのですが、荷室の造り込みやアイデアの詰め込み方、走行性能では「COOL」が優れており、使い込む軽バンとして購入するなら、「N-VAN」シリーズをおすすめします。
「キャディ」は2人乗りに特化したアイデイを詰め込み、それをアピールできると、面白い車に仕上がると思えます。なお、現状ではターボエンジン搭載モデルでないと、力不足が顕著に感じられるので、「キャディ」を購入するならトップグレードX“SAⅢ”が、おすすめのグレードです。